Column

2000/05/31

遅れていた日本

衝突事故から子供の命を守ることは親の責任というよりもむしろ社会に課せられる重要な課題である。しかし日本のクルマ社会では子供の命は無視されてきた。欧米ではすでに20年以上も前から子供の命を交通事故から守る対策が官民をあげて行われてきただけでなく、 ユーザーの認識も非常に高い。

例えばアメリカでは、前席に12歳以下の子供を乗せることは法律で禁じている。子供は後席でチャイルドシートというのが、当然のこととして実行されている。

欧州でも子供を前席に乗せることはユーザーの意識の中になく、例外なく子供は後席でチャイルドシートにくくりつけられる。子供の安全対策の遅れに警察庁はしびれを切らし、ついにチャイルドシートの義務化を法規制した。ハードウエアとしての日本車は最近めざましく安全性が向上したが、ユーザーの安全認識は依然として後進国である。しかしここにきてチャイルドシート着用の法令化が論議されるようになってから、子供を持つドライバ-の関心度が一段と高まってきた。

道路交通法の改正により、平成12年4月1日から6才未満の幼児への着用が義務付けられることになったのであるが、まだその有効性や使い方についてはピンとこないユーザーが多いはずである。

さて、一般的にはチャイルドシ-トと呼ばれているが、衝突安全の基本でいうと「人間一人にベルト一本は必要」。つまりシャイルドシートが意味することは子供のゆりかごではなく、子供をクルマにくくりつける(拘束=レストレイン)装置であるわけだ。欧米ではチャイルド・レストレイン・システム(CRS)と呼ぶのが一般的であり、ここでもCRSと呼ぶことにする。

全国のドライバ-1万5千人を対象に行われた99年度JAF『チャイルドシ-ト着用実態全国調査』の結果、 CRS着用の現状が明らかになった。

  0〜12ヶ月:43.8%
  1〜4歳:16.7%
  5歳幼児:3.7%
  6歳未満:15.1%
  6〜9歳:1.4%

この数字は前年度より高くなっているものの、依然として着用率は低いままと言わなければならない。CRSを着用していたため、事故にあいながらも最悪の事態を免れたというケ-スは数多く、車内での事故もその多くを未然に防ぐことができる。しかしながら、現実には危険を感じる場面に遭遇したり、身近に事故を経験しないと、なかなかその必要性を実感できないのかもしれない。

クルマのコマ-シャルにしても、ダミ-人形を乗せた自動車を衝突させる映像を流して、シ-トベルト、エアバッグ・衝突吸収ボディの有効性を表現したものは多いが、それに比べるとCRSの有効性に関するコマ-シャルはまだまだ少ない。

CRSの必要性を認識してもらうためにも、キャンペーン活動にもう少し力を入れるべきであろう。