Column

2000/05/31

チャイルドシートに対する今後の取り組み

動く乗り物の中で、子供の安全をどうやって確保するか。いまアメリカでは様々な取り組みが行われている。アメリカでは「ベビーベア」という商品が売られている。これは飛行中の乱気流から赤ちゃんを守るベストで、値段は約40ドル。

連邦航空局の安全基準もパスしたこのベストに母親のシートベルトを通して締めると、安心して赤ちゃんを膝のうえに抱ける。これで乱気流から赤ちゃんを守れるのだ。

このように高度に発達したモビリティ社会で、いかに子供(弱者)を守るか、欧米では真剣そのもの。子供の安全をどのように考えているかで、その社会の成熟度がを計ることができる。

クルマ社会で犠牲になる子供達は後を絶たない。車内ではCRS=チャイルド・レストレイン・システム(年少者拘束装置)がその一つの解決策である。一方、車外では自動車に跳ねられて命を失ったり、重大な傷害を受ける子供も多いのだ。クルマと人の共生という視点で見ると、現在の社会はあまりにもクルマ優先のあり方に大きな問題がありそうだ。急速に増加したクルマの台数によって、日本ではクルマと歩行者との共生がうまくいかず、世界でも歩行者死亡は日本が多い。

また、車内での子供の安全もほとんど確保されていない、という現実を我々は正面から取り組まなければならない。

車外でも車内でも日本では子供の安全が置き去りになれていたのである。この問題は社会の構造や道路基盤、都市のあり方、交通行政、緊急救命、クルマの安全性、ドライバーのモラルやスキル、ドライバーの安全認識など多岐にわたる。

CRS法制化を間近にし、ようやくユーザーも重い腰を上げた。CRSがないとつかまってしまう、という感覚であるが。ところが、日本で行われるキャンペーンやPR活動は、欧米に比べあまりにも見識が低い。自社のCRSを売るため小児科医まで広告塔に登場しているメーカーもある。それが良いか悪いかではなく、小児科医に衝突事故のリアリティはないだろう。CRSは自動車の問題なのである。メーカーもCRSメーカーに任せるのではなく、自社で設計することが必要なのだ。大人のシートは十分安全性と快適性を考えて設計されるが、CRSはいまでも部品扱いだ。

しかしCRSは子供の拘束装置(シートベルト)である以上、クルマの構造的な知識と衝突時の物理現象を理解することが必要だ。このような認識に欠落しCRSが子供の快適装置であるかのようなPRも目立ってきている。

また最近登場したISOFIX(国際標準規格で定めたCRSとクルマとの取り付け方法)も話題となった。このISOFIXは普及が進んだ欧州で、ミスユースの問題を避けるために考案された。この欧州規格の日本導入でユーザーはさらに混乱が避けられない。

日本では現在のところ運輸省が定めた基準のCRSがスタンダードとなっているが、いまどのCRSを買うか頭を悩ませるユーザーは多いはずだ。CRSの性能もさることながら、重要なことは自分の車との取りけがうまくいくかチェックする必要があるだろう。

今必要なことは運輸省の基準にあったCRSで、しかも自分の車に取り付けやすい物を選ぶことだ。実際に取り付けてから買うことが必要とても重要。チャイルドシートにこそしっかりした安全基準を日本ではCRSの安全基準が遅れをとった。自動車安全基準を定める運輸省では欧米の基準が一元化するのを見守ってから法制化を考えていた。

またCRSを供給するメーカーの生産体制も気になるところだ。しかし警察は待ったなしの状況であると判断し、CRS義務化の法案だした。チャイルドシートに代表されるCRS(年少者拘束装置)は、もともと自動車部品扱いであったので、通産省管轄のJIS規格で制定されていた。しかし衝突試験のレベルが低く、国際基準とは大きく後れをとっていた。CRS義務化が決まると運輸省がたまらずJIS規格では不十分であると認識し、運輸省の技術指針を98年の秋に制定。この指針に沿ったものが、日本におけるCRSの事実上の安全基準となった。しかし実際のところCRSメーカーは、玩具と同じ感覚でチャイルドシート(揺りかごの延長線)を作ってきたメーカーが多い。ただのオプションであってはならない。なぜなら、それは次世代をになう子供たちの命を守る大切な装置だからだ。

トヨタのGOAやダイハツのTAF、各種の衝突基準などボディに関する安全基準は最近よくきかれるが、チャイルドシートについての安全基準はほとんど話題にならない。これこそ、日本の大人社会の貧困さを示している。

現在のチャイルドシートの安全基準は、運輸省が暫定的に定めたものだ。安全基準が議論される前に義務化とう法律が制定されるのは、いかに日本が縦割り行政しか行われていないか、の証明である。“弱い者は守る"という社会的な合意や意志がつくられなければならないのだ。多くのチャイルドシートは取り付け方をミスしている米国で、CRSに関するトップクラスのインストラクターとして知られるジョー・コレーラ氏が、先日サターンジャパンの招きで来日した。コレーラ氏は、日本では初となるチャイルドシートの「チェックアップ・イベント」で、正しい装着のやり方などを指導し、その結果、日本では、ほとんどのシートで、取り付け方にミスがあることが指摘された。
「思い切りCRSをベルトで固定する。クルマが揺れるくらいCRSを揺すって確認する、これが大切だ」とアメリカ人男性であるコレーラ氏は説明する。現実には日本の母親には無理な注文だ。アメリカでもこの問題は深刻だ。無知で力のない母親によってせっかくのCRSが正しく使われていないことにより、多くの子供達が犠牲になっているこの問題は、チャイルドシートの取り付け方に統一性がないことを表しているが、日本ではチャイルドシートそのものに、問題があるケースが目立っている。製造するメーカーの中には乳母クルマの延長線で開発するメーカーもあるし、衝突安全の物理的な現象を理解できていないエンジニアもいるのだ。

チャイルドシートの開発は燃料電池と並ぶくらい重要「明日の子供達」のために世界は真剣に環境問題に取り組んでいる。しかしその子供達の「今の命」は一体どうなっているんどあろうか。30年後に地球温暖化とくい止めることができ、化石燃料に代わるクリーンな代替えエネルギーを手にしたとしても、そのときの大人は今の子供達なのだ。とくに先進諸国においては、高齢化は世界的な傾向である。となると現在の子供の命はなににも変えられない大切な命なのではないか。子供の安全を守ることは、大人に課せられた義務といってもよいだろう。チャイルドシートの開発には、リアルワールドでの交通事故からの教訓とデータをくみ取り、合わせて生体工学の基礎研究が必要だからだ。

世界的に子供の死体を使う実験は行われていないが(欧米では昔は行われていたが)、大人に比べ、子供はどのくらいの衝撃加速度に耐えられるか、身体のなかで頭部や胸部に比べて、腹部はどのくらい衝撃に弱いかということな課題を研究することが必要。こうした研究がなければ、本来CRSは開発できないはずなのだ。現状を考えるともっと強力に研究を進めなければならない。将来、クルマの心臓部は、燃料電池となるかもしれないが、その時になって、クルマを運転するべき子供たちがいなかったら、笑えないブラックユーモアと言うほかはない。